farCe*Clown
2011年エイプリルフール企画番外編
エイプリルフールに乗じた、お楽しみ企画。
学園パロデイSSになります。
苦手な方はご注意ください。大丈夫な方は、自己責任でスクロールしてください。
真っ黒な革製のソファに腰掛けていた希有は、読んでいた本を閉じて顔をあげた。壁にかけられた時計の時刻は、もう直、午後の二時を迎える。
パソコンのキーボードを叩く音の方へ視線を遣れば、桜色の髪をした青年が黙々と仕事を片付けていた。秘書のセシル・ソローが置いて行った書類の山が、次々に処理されていく。
不意に、希有の視線を感じた彼が、パソコンと書類から目を離す。彼はソファに座る希有に微笑んだが、直ぐ様、眉をひそめた。
「どうかしたの? シルヴィオ」
何か気に入らないことでもあったのだろうか。彼の機嫌を損なうような真似をした覚えはないが、希有が気付かぬうちに何か仕出かしていることも考えられる。
彼は立ち上がり、希有の座るソファへと静かに近づいてきた。その行動に首を傾げていると、突如、彼は希有を抱き抱える。
「え?」
そして、体勢を整えた後、自分の足の間に希有を座らせるようにして、ソファに腰掛けた。
「…………、何しているの?」
元から触れ合いが好きな人であるため、彼が希有を後ろから抱きしめるのは珍しいことではない。無論、恥ずかしさはあるのだが、希有とて満更でもないので好きにさせている。
ただ、どうして、いきなりこのような行動に出たのかが分からない。
「スカートが短い」
小さく呟かれた言葉を理解した瞬間、希有は呆れて溜息をついた。そのような些細なことで、背後の青年は機嫌を悪くしていたらしい。
「規程の長さだから。――シルヴィオが認めたんでしょ?」
希有のスカートの長さは校則通りであり、その校則は理事長であるシルヴィオも承認しているはずだ。
子どものように拗ねる青年に、希有は肩を竦めた。
すると、シルヴィオは何を思ったのか、スカートから見え隠れする希有の太腿に無骨な指を這わせた。
「……っ、ひ、何やっているの!」
急に冷たい手で触れられて、驚いた希有は思わず甲高い声を上げる。
「いや、……見せているということは、触ってほしいのかと思って。すまないな、汲み取ってやれなくて」
「ばかなこと言わないで!」
怪しい動きをする彼の手を思いっきり叩いて、希有は叫んだ。
赤くなった手に懲りたのか、彼は直ぐに希有の足に触れるのを止めた。
「ベアトリス様との約束、破るつもりなの?」
――在学中は、決して手を出さない。
「まさか。だが、あと一年も待たなければならないと思うと……、拷問だな」
シルヴィオが希有の背後から腕を伸ばして、抱きついてくる。
「たった一年だよ。頑張って、理事長」
腹に回された彼の腕を鬱陶しそうに抓って、希有は興味ないふりをして言う。彼と親密になりたいとは思うが、今の関係で精一杯というのが正直なところなのだ。
シルヴィオは違うようだが、希有にとっては、ベアトリスとの約束は悪いものではない。
「こんなことになるなら、理事長なんて継がなければ良かった。同じ敷地にいるのに、手を出してはいけないなんて、何の拷問だ。姉上との約束さえなければ……」
「はいはい」
おざなりに返事をしながら、希有はテーブルの上に置いていた携帯電話を操作する。双子の姉から、今日は一緒に夕食がとれると連絡が来ていた。希有と違い、姉は進学校の特待生をしているため忙しいのだ。二人で夕食を共にする機会は、あまりないので嬉しかった。
「……ああ、良いことを思いついた。キユ、学園を辞めろ」
「は?」
「お前がリアノの生徒だから問題なんだ。盗蜜者の成人は十四歳だ、結婚できる。自主退学して、嫁に来い」
「……、それ以上ふざけたこと言うなら、良い加減、帰るよ。今日は久しぶりに美優ちゃんと一緒に夕飯なんだから」
「冷たいな。俺のことが嫌いなのか?」
揶揄するような声音に、希有は少しだけ唇を尖らせた。
「……、嫌いなら、休日にわざわざ学園に来たりしないよ」
希有はシルヴィオに体重を預けて、甘えるように胸に頬を擦り寄せる。
「だから。あと、一年、頑張ってね」
希有が微笑むと、シルヴィオの指が頬を這う。
次の瞬間、彼は希有を無理やり振り向かせて、その唇に噛みついた。目を見開いた希有の瞳には、春の光を浴びた若草の瞳が映り出す。
「これくらいならば、赦してくれるだろう?」
頬を朱色に染め上げた希有に、シルヴィオは悪戯に笑った。
【あとがき】
実は、設定だけなら一年前から存在していた学園パロディです。折角なので、エイプリルフール企画として、SSを書き下ろしました。
彼らの年齢は本編に準拠しています。
しかし、理事長と女子生徒。学園物にした途端に、年齢差がいかがわしくなるのは何故でしょう……。
少しでもお楽しみいただけたら幸いです。
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