月虹彼方

序幕 月語り 01

 淡い金の髪が、夜風に靡く。
「変わらぬものなど在り得ない。時の流れは大地を穢し、穢れは神をも滅ぼした。そうして、神が最期の時に創造したのが月神だ」
 青白い月光に照らされた白皙の美貌で、青嵐せいらんは嗤う。
「だが、残念ながら、月の女神は人類のすべてを救いあげてはくれなかった。彼の女神が創り出した桃源郷――月には、彼女が翼を授けた者たちしか暮らせない」
 真朱しんしゅは、彼の言葉に小さく頷いた。
 白銀の翼をもった月神は、穢れた大地を捨てることを望み、天つ空に月を創造した。同時に、彼女は空に浮かべた月と揃えて、天翔る翼を人類の一部・・に与えたのだ。

「さて、貴様に問おう。翼を授かれなかった我らしょうの民に、何が残る?」

 愛しい主人からの問いに、その時の真朱は答えることができなかった。