farCe*Clown

第二幕 逃げ人 10

 そこは、薄暗い部屋だった。
 寂れた室内の内装に似合わない豪奢なソファに座り、部屋を照らす炎を見つめる青年がいた。
 年はまだ若く、二十代の後半といったところであろうか。
 青年は酷く大きな溜息をついて、悲痛な面持ちをしていた。その表情には、隠しきれない疲労が露わになっている。
 銀を溶かしたような不思議な瞳を縁取る色濃い隈は、一日でできるようなものではない。
「ルディ様」
 三十がらみの痩せた女が、食事を携えて部屋に入ってくる。彼女は、削ったように薄い唇で青年の名を呼んだ。
「――、何用だ」
「もう、三日でございます。御休みになられた方が宜しいのではないでしょうか」
 しかし、女の言葉に青年は首を振った。
「ルディ様、……ヴェルディアナ様! 御休みにならないのであれば、せめて何か口にしてくださいませ。さしでがましい願いではありますが、……どうか」
 女が食事を差し出すが、青年は応えない。その様子に女は悲しげに顔を歪めた。
「アルバートたちが必死になって探している最中だ。私だけ、ここで休んでなど」
「そのようなことを仰らないでくださいませ。貴方様までいなくなれば、……私たちはどうすれば良いのですか」
 わずかな希望に縋るような女の声に、青年は肩を揺らす。
「どうか、ご自愛を。このままでは、貴方様の体が持ちません」
「……お前の言うことは分かる。だが、とても、食事などする気分にはなれない」
 艶のある茶髪を掻きあげて、青年は目を伏せる。
「お前は、何処にいる?」
 青年の小さな呟きは、室内に揺れる炎に呑まれていく。
 燃え盛る火も風に晒されれば消えゆくように、強く輝いていた青年の希望も光を奪われていく。
 だが、どれほど状況が絶望的であろうとも、諦め切れぬ望みがある。

「シルヴィオ」

 青年は胸に巣食う思いに目をつむり、強く拳を握りしめた。