farCe*Clown

第二幕 泣きながら嗤う裏切り者 42

 エルザの姿を見てから、数日後。
 訪ねて来たヴェルディアナに、希有は作り笑いを向けた。彼は、希有のあからさまな愛想笑いを見て、軽く頬を引きつらせた。
 前々から思っていたが、分かりやす過ぎる人だ。
「返事を聞かせてもらえると、カミラから聞いたのだが」
 ここ数日は、ヴェルディアナと接触できるように、カミラに無理を言って頼んだのだ。

「彼の隣を、離れるつもりはありません」

 最大限の笑顔と共に言えば、ヴェルディアナが動きを止めた。
「そちらが何時までも軟禁まがいを続けるなら、――わたしは、意地でも頷いてなんかやりません。そのことだけ、伝えたかったんです」
「……、自分が言っていることを、分かっているのか? どう考えても、不利なのはそちらだろう」
 ヴェルディアナの言葉に、希有は首を振る。
「いいえ。むしろ、長く時間が経てば経つほど、わたしにとっては有利になるのでは?」
「……何を、言っているのか」
「考えてみれば、わたしにシルヴィオ様の傍を離れろと言うより、彼に直接言うのが先ですよね。わたしのことなんて、見捨てろ、と」
 どう考えても、そちらのほうが、ことは早く済むのだ。
 希有とシルヴィオの力関係は、確実にシルヴィオの方が上である。公爵家が、卑しい娘を捨てろとシルヴィオに言えば済む話だったのだ。
「それなのに、こんな回りくどい真似をしているのは、……シルヴィオは、頷かなかったってことですよね?」
 ヴェルディアナの顔が、わずかにしかめられた。
「……、貴方は、シルヴィオの傍を離れてくれれば良い。悪いようにはしない。私とて、手荒な真似はしたくない」
「嫌です」
 断言すると、ヴェルディアナの眉間に深い皺が刻まれた。
「今のうちに身を引いた方が良い。これはシルヴィオのためでもあり、貴方のためでもある」
「……、わたしのためになることは、わたしが決めます。それに、彼のためにならないのは、私だけではなく、貴方もではありませんか?」
 希有は、小さく息を吸ってから、躊躇うように唇を開く。

「どうして、半年前、シルヴィオ様を助けなかったんですか」

 あの時、シルヴィオは、――苦しかったのだろう。
 それ故に、希有のあのような言葉に心動かされてしまった。希有のような取るに足らない存在を、良い者だと錯覚してしまったのだ。
「彼が囚われていたことを、貴方は知っていたはずです。……、裏切ったのですか、あの人を」
 希有がゆっくりと言い終えると、視線の先には、ひたすらに困惑したようなヴェルディアナがいる。
「すまないが、……貴方は、何のことを言っているのだ?」
 心底、不思議そうにヴェルディアナは目を瞬かせた。
「助けなかったとは、裏切ったとは、どういう意味だ? 私とシルヴィオは、あれが生まれたときからの付き合いだ。大切な主君であり、友だと言ってくれるシルヴィオを、何故、私が裏切る?」
 希有の質問の意味が本当に分からないらしく、目に見えてヴェルディアナの表情は不機嫌になっていく。
「エルザさんから……、聞いていないのですか?」
「何をだ?」
「エルザさんは、あの時、シルヴィオ様の居場所を知っていたはずです」
 ヴェルディアナは、動揺したように軽く目を見開く。だが、その様子は一瞬にして消え去り、代わりにひどい仏頂面が現れた。
「何を根拠に言っているのか分からないが、エルザがシルヴィオの居場所を知っていたならば、報告するだろう。あれは私に隠し事などしない」
 苛立たしげに言い切ったヴェルディアナに、希有は食い下がる。
「どうして、隠し事をしないなんて言えるんですか」
 彼が断言するのは勝手だが、現にエルザはあの少年の姿をもっていた。それこそが、疑いようのない裏切りの証拠だろう。
「あれは、すべてと引き換えにして私の下に在ることを決めた。私とラシェルの最善だけを常に考えている。私は、エルザを疑うことはない。疑う必要などないからだ」
 ヴェルディアナは、一切の迷いが消し去られた声で、彼にとっての真実を語った。
「……、失礼する。訳の分からないことを言うくらいならば、頼むから、色良い返事を聞かせてくれ」
 深い溜息と共に部屋を出て行ったヴェルディアナを見て、希有は眉をひそめる。
 あの反応から考えると、ヴェルディアナは本当に何も知らないのかもしれない。彼は初めから実直な人で、偽っているようには、全く感じられないのだ。演技だと考えるには、あまりにも完璧すぎて不自然だ。
 第一に、シルヴィオが親友として今も認めているのであれば、裏表があるような人間だとは思えない。
 言い方は悪いが、扱いやすい人間の方がシルヴィオは好む。
 それならば、シルヴィオを見捨てたのは、エルザの独断だったのだろうか。

「キユ様、ルディ様と何かお話になっていたのですか?」

 ヴェルディアナと入れ替わるようにして、エルザが入ってくる。
 牢屋に居た時の姿とは違う、背丈は似ているが髪の色から顔まで異なる青年の姿で、エルザは言う。
 だが、アルバートの話を踏まえた上で考えてみると、不可能ではないように思えてくる。人の記憶など、己が意識しているよりも曖昧だ。一度や二度しか会ったことのない人間を、いつまでも憶えている者などいない。
 少し似ていたとしても、別の人間だと思わせることくらいならば、人間業の範疇に入るはずだ。それを生業としている人間ならば、なおさらのことだと、希有は思うことにした。現に、エルザはそれを可能にしているのだから、あり得るわけないと頑なに否定してもどうしようもない。
「……どうせ、聞いていたのでしょう」
 エルザは、希有を見張っていたのだろう。希有の行動を把握していないはずがない。先ほどのヴェルディアナとの会話の内容など、すべて聞いていたに違いない。
 もしかしたら、アルバートと共にエルザを覗きに行った際も、希有たちが来ることを分かっていて意図的に少年の姿をしていたのかもしれない。希有が、ヴェルディアナを問い詰めることを予想していたからこそ、エルザはわざと監守だった少年の姿をしていた可能性は多分にある。
 すべては、自分一人の独断であることを示すためなのだろうか。エルザの意図など、希有には推し量れない。
「どうして、貴方はシルヴィオ様を牢から出さなかったのですか?」
 ただ一つ確かなのは、エルザの行動が、シルヴィオを苦しめる結果に繋がったことだけだ。
「監守は一人、貴方さえ手引きすれば、容易くシルヴィオ様は外に出られました。監守に紛れていたのだから、知らないはずがないのに……、貴方は、シルヴィオ様が監獄塔で捕まっていたことをルディ様に報告していなかった」
 この際、エルザが希有の質問に答えてくれなくとも構わない。
 わずかにでも動揺してくれるならば、希有はそれを肯定と取ってしまおう。どのような目的があって、エルザが動いていたのかも、希有には漠然としか分かりはしないのだ。
「最初は、貴方がルディ様に命令されたこと以外できないからだと思っていたんです。でも、自分で最善を考えて動けない人間なんて、ただの役立たずです」
 カルロスの傍に控えていた褐色の男のように、主人の命令を忠実に守ったからといって、それが主の最善に繋がるとは限らない。あの男が出すぎた真似をしなかったが故に、カルロスは隠居せざるを得なくなった。
 そして、ヴェルディアナのような実直な主人を持つのであれば、エルザは主人の未来を見越しながら、一瞬一瞬を自分自身で切り抜けていかなければならない。
「考えられることは一つだけです。シルヴィオが死ぬことで、あなたにとっての利があったから」
 その利が何であるかまでは分からないが、それ以外は考えられない。
 エルザは意地の悪い笑みを絶やすことなく、希有の声に耳を傾けていた。
「ふふ、いきなり何を言い出すかと思えば、……キユ様、案外大胆なんですね」
 莫迦にするように鼻で笑って、エルザは言った。
「無鉄砲とも言いますけど」
「……、それは、肯定ですか?」
 エルザは笑みを深める。

「賭けていたんです」

 細められた目の奥に宿る光は、決して優しげなものではなかった。
「まあ、シルヴィオ様が亡くなったとしても、僕の願いが叶うかどうかなんて分からなかったので、叶わなくても、それはそれで良かったんですけどね」
 嘘だ。
 叶わなくても良い願いならば、エルザは、ヴェルディアナにシルヴィオのことを報告していたはずだ。シルヴィオの無事を祈っていた彼の気持ちを汲むことなく、エルザはシルヴィオを助けなかった。主人を欺いてまでに、叶えたい願いだったのだ。
「こんな簡単に話して、良かったんですか」
「言わせておいて酷い台詞ですね。ご心配は無用です、ルディ様が貴方の言葉を信じて僕を罰することはあり得ません。僕は、あの方と若様の最善だけを考えていますし、ルディ様はその点に関しては絶対に疑いませんから」
「……、なら、わたしの監視も、貴方の独断ですか」
 おかしいとは、思っていたのだ。
 エルザが希有に会う必要性などないというのに、明らかに不自然なほど遭遇率が高すぎた。それも、毎度カミラがいない時に限ってなのだから、いくら希有でも気づく。
「監視、なんてたいそうなものではなかったですけどね。カミラの奴に邪魔されて部屋の中までは無理でしたけど、それなりに見させてもらいましたよ」
 エルザは、目を細めて、一歩一歩希有に近づいてくる。
 希有は動くことなく、エルザを見つめた。
「シルヴィオ様が気に入る意味が、ほんのちょっぴりだけ分かりました。非道になろうとして、結局口だけでなれやしない。甘さなのか偽善なのか知りませんけど……、貴方はまるで砂糖菓子です」
「そんな可愛いらしいものでは、ありません」
「砂糖菓子は可愛くありませんよ、何せ、奴らと来たら人を太らせるために存在してますから。僕、大嫌いです」
 カミラが机の上に用意していた砂糖菓子を指ではじいて、エルザは不機嫌そうに呟く。
「……、わたしが邪魔なら、そう言ってください」
 敵意を流せるほど大人でもなく、また、剣呑けんのんな光に気づけないほど子どもでもない。回りくどい攻め方をするくらいならば、直接、ベアトリスのように喧嘩を売ってもらった方が、精神的には随分と楽だ。
「だって、意味がないでしょう。邪魔だと言われても、貴方はその場所を明け渡すつもりがないんですよね? アルバート様の可愛らしい色仕掛けも通じないかったみたいですし」
「……、色仕掛けって」
「シルヴィオ様ほどではないでしょうけど、アルバート様もお綺麗な顔をしています。贈り物までされて、ちょっとでも惹かれないなんて信じられません。それでも女ですか」
「悪趣味な。見てたんですか」
 先日、花束は貰い嬉しくはあったが特に他に思うところはない。その後の手の甲への口づけも、寒気が走っただけだ。第一に、二つも年下の男の子から貰った贈り物を可愛らしく思っても、そこに恋愛は浮かぶのだろうか。
 また、希有は、最初からアルバートが自分などを相手にするとは思っていないのだ。そこまで自惚うぬぼれてはいない。
「でも、アルバート様との遣り取りを見て良く分かりました。キユ様は、綺麗なものが嫌いではないんでしょうけど、……少しだけ、怯えていますよね」
 ――外見であれ内面であれ、綺麗なものは、あの子を彷彿とさせる。
 肩を震わした希有に、エルザは続ける。
「だから、アルバート様を色目で見ることもない。シルヴィオ様のお姿に心惑わされて、恋に狂うこともない」
 シルヴィオは、咲き誇る桜のように美しい。
 命の芽吹きを感じさせる優しい色を宿した、春を体現するような人。絶妙な均衡を保つかんばせは、見たものを容易く虜にするだろう。
「シルヴィオ様の美貌は毒だ。人の心を乱す魔性ましょうの美しさです。軽い気持ちで傍にいれば、どうしようもないほど惹かれて、容易く恋に、彼に狂ってしまう。……実際、そうやって狂った人間もいます」
 手慣れた様子で、エルザは茶の準備をする。
 ほとんど手元を見ない仕草に、どれほどエルザが同じ行為を繰り返していたかが見て取れた。もしかしたら、昔は給仕の仕事でもしていたのかもしれない。
「ああ、……、そんな風な安っぽい恋情が、貴方がシルヴィオ様の傍に居る理由であれば良かったのに」
 一瞬だけ手を止めて、エルザは希有に視線を寄こした。
「貴方がシルヴィオ様の傍に居るのは、どうしてなんでしょうか。熱に浮かされたような恋情以外で、あの方を好んで近くにいるなんて、――キユ様自虐趣味でもあるんですか? あの方、顔はお綺麗ですけど性格は悪いのに」
「失礼も程々にしてください」
 シルヴィオに対してもだが、何よりも希有に対して失礼だろう。シルヴィオに性悪な面があることは認めるが、希有は自虐趣味など持ったつもりはない。
「貴方は感情的で、愚かで、無鉄砲だけど……、ものを考えられないほどには莫迦ではないはずです。シルヴィオ様の傍に居ることが、彼にとっても自分にとっても、決して得策ではないことを知っているはずだ」
 希有がシルヴィオの傍にいることは、決して最善とは呼べないだろう。
 生活を保障され、地球に帰るための情報が集まるという点では良いかもしれないが、王の傍にいるだけで希有自身の危険は高まる。亡き黒の一族の末裔としての地位が与えられたからこその危機も、この先にはあるだろう。
 シルヴィオにとっても、希有が傍に在るだけで、今まで支援してもらっていた公爵家からの反発を招く。希有の存在は、彼の負担となっている。
「貴方がどうしてシルヴィオ様の傍にいたいのか、僕たちには良く分からない。そんな貴方をシルヴィオ様から離すために僕らが打てる手は、ただ一つ」
 エルザが注ぎ終わった紅茶を希有の前に置く。
 震える手でそれを持ち上げて、希有は問うた。
「わたしを、……殺しますか?」
 何が入っているかも分からない紅茶を、躊躇いを振り払って、希有は一息に飲み干す。公爵家で使われている茶葉なのだから高価なものであろうが、恐怖で麻痺した舌では味は良く分からなかった。
 両者の間に一時の緊張が走った後、エルザは肩を竦める
「いいえ。毒なんて入れませんよ。貴方はシルヴィオ様に特別ですからね。毒殺なんて、とんでもない。僕も命は惜しいです」
 両手を上げて肩を竦めるエルザに、希有は呟く。
「……、特別なんかじゃ、ありませんよ。わたしのことなんて、珍しい玩具程度にしか思っていませんから」
 エルザの言うような特別であったならば、連絡の一つでもあっただろう。公爵家に来てから既に三週間が経つが、その間、シルヴィオからの連絡は何一つない。
「なに、すっとぼけたことを言ってるんですか。貴方はあの方にとって特別だ。貴方を殺したらシルヴィオ様が何をするか、僕は理解してる」
 一瞬の沈黙の後、エルザにしては珍しく真面目な声で言った。
「あの方、最悪、僕たちのこと殺しますよ」
 否定は、できなかった。
 希有の死によってエルザたちが殺されるとは思えなかったが、何らかの切欠によって唐突に彼が味方を殺す姿は、簡単に想像ができたのだ。
 最近は、優しくばかりされていたために忘れかけていたが、あの男はそういう矛盾をはらんだ危うくて不安定な人間だ。
「シルヴィオ様は、……、あの方が生まれた瞬間から積み上げられてきた計画を投げ打ってまで、貴方を助けたいと願った」
 遠回しな言葉に、希有は何も言わずに目を伏せた。
「それが、どれほどのことか貴方は知らないんですね。王になることを刷り込まれて生きていたあの方にとって、貴方みたいな異邦人を特別に思うことは異常なんですよ」
「……だから、特別なんかじゃ」
「特別です。そうでなくては、シルヴィオ様はここまでしない。貴方がこの家にいながら無事でいられるのは、あの方が手をまわしたからです。シルヴィオ様は、傍に入れずとも貴方を守るつもりなんです」
 俯いた希有に、エルザは、まるで独り言のように投げかける。
「公爵家は、かつての再来を恐れています。残酷な形で摘み取ったはずのシルヴィオ様の淡い想いが、再び別の少女に向けて彼の中で芽生え始めたことが何よりも恐ろしい」
 滔々とうとうと語り、まるで何かを回想するようにエルザは息をついた。
「シルヴィオ・リアノは王でしかない。そんなあの方に、僅かでも芽生えてしまった貴方への感情は、性質の悪い――はしかのような恋だ。ひどい三文芝居、観客も興醒める甘ったるい、あまりにも出来すぎた恋物語」
 牢獄で出逢った男女が、恋に落ちる。
 寂れた劇場で繰り返されるような、出来すぎた王道の物語。
「勘違いです」
 だが、現実が同じであるはずがない。
 彼が希有などに恋をする日は、来ないだろう。シルヴィオの希有に対する愛着など、結局のところ、初めて与えられた玩具に対する愛着のようなもの。今までシルヴィオの周りにいた人間とは、毛色の違う希有が珍しいだけだ。
 希有がシルヴィオに抱く想いと同じものを、シルヴィオは希有に対して抱いていないだろう。希有の彼に対する想いは、希有自身も良く分からない感情だ。
 彼を見ると胸の奥が温かくて、どうしようもなく切なくなる。
 生まれた時から一緒だったあの子の次点ほどには、彼に心を傾けている自覚があった。
 立ち上がった希有に、エルザは言葉を投げかける。
「お目当ての場所は、この部屋を出て右の階段を上った先ですよ」
 扉に向かおうとしている希有を咎めるわけでもなく、エルザは言う。引き止められると思っていた希有は、思わずエルザの顔を凝視した。
「僕は、止めておいた方が良いとは思いますけどね。貴方が行ったところで何が変わるわけでもありませんし、余計なことをしないで、待っていた方が無難です」
 エルザの言うとおりだ。
 自分から、わざわざ危険な目にあいに行く必要などない。敢えて行くと言うならば、それは、誰の目にもあきらかな愚行でしかない。
「でも、伝えなければ、ならないことがあります」
「ほんの少ししか関わりを持っていない。そんな貴方からの薄っぺらな言葉で、……何が伝えられるって言うんですか」
「……何も、伝わらないかもしれません。でも、このままだと、傷つくことになります」
「シルヴィオ様が、傷つくのが嫌なんですか?」
「シルヴィオと、……わたしの友だち・・・が傷つくのが嫌なんです」
 はっきりと言い切ると、エルザは不快そうに眉をひそめる。そして、蔑むように吐き捨てた。
「お美しい同情ですね、虫唾が走る」
 希有は軽く唇を噛んでから、小さく息を吸った。
「……、はい。これは、愚劣な同情・・です」
 分かっている。
 こんな同情には、何の価値もないと誰もが笑う。
 だが、分かっていてもなお、希有は行くと決めたのだ。
「本当、ばかな餓鬼」
 エルザの呟きに応えることなく、希有は部屋を出て行った。