秋の空

 それは色を持っています。
 様々な色を織り交ぜて、多種多様に色を変えていく恐ろしいものです。
 怒りには赤色を放ち、悲しみを青く浮かばせます。喜びに黄色を漂わせ、好意で桃色を滲ませます。
 まるで秋の空のように、他に影響され、移り変わっていくその色がわたしは嫌いなのです。

 瞳は、怖い。

 口よりも饒舌にものを語ります。その人の本心を忠実に反射させる鏡面です。人間の中で一番無防備な場所、見えないはずの心を映し出してしまうおぞましい一部。
 口は誤魔化せても、瞳に映える心は隠せません。
 だから、とても恐ろしいのです。
 その視線の全てが、様々な意思を持ち、わたしに向けられていると思うと耐えられませんでした。
 どうして、皆平気でいられるのでしょうか。
 わたしは、怖くて怖くて堪らないのに。
 この思いは誰にも理解されないと分かっています。独りよがりな妄想かもしれないことも、十分に承知しています。
 それでも、わたしは眼が、瞳が、恐ろしくて堪らないのです。

 でも、わたしは見つけました。
 その瞳だけは、わたしは好きになれました。
 遠目から見ているだけでも、うっとりするほど美しい。
 みんなの中で笑っているのに、その瞳は誰よりも澄んでいて、空っぽで、綺麗です。
 なんて、美しい瞳をしているのでしょうか。
 あのようなものが世の中にあっていいのですか。あのような瞳を持った人が世界にいる奇跡に、わたしは感謝しました。
 塩原颯。
 口の中で愛しい瞳を持つ彼の名を、転がしました。
 高揚とした気分の余り、思わず舌を噛んでしまいます。苦くて鉄臭い血の味が広がりました。わたしは眉をひそめながら、薄いフレーム越しにあの瞳に視線を寄せました。
 きっと、あの瞳は、砂糖菓子のように甘いのでしょう。
 あの瞳が手に入ったらどうするか。
 最近は、そんなことばかり考えています。

 わたしは、おかしくなってしまったのでしょうか。