徒花と眠り姫

鈴蘭の眠り姫 01

 吹雪の夜だった。
 窓から見える景色には白が咲き乱れ、穢れない世界が広がっている。
 ほんのわずかな月明かりに照らされた部屋の中で、小さく息をついた。
 月光を糧にして煌めく黒塗りの棺に触れ、震える手で蓋を開く。
 棺の中を満たしていたのは、毒々しい鈴蘭の花々だった。その白き花に埋もれて眠るのは、童話に生きる姫君のように美しい女。
 これから永遠を約束されるはずの、麗しい人の形を模した存在だ。
 透き通るほどに青白い頬に指を這わしても、一切の反応はない。

 眠り姫を起こすように、冷たい唇に口づけた。

 人形の目覚めは、決して祝福されない。
 どこまでも呪われた、忌まわしい二度目の時間の始まりに過ぎないのだ。
「……、おはよう」
 自嘲と共に声をかければ、女の固くつむられていた瞼が静かに開いた。

 目覚めた人形の瞳は、どこまでも深い闇色をしていた。