序幕 愛しき名 01
白亜の神殿の最奥には、リトルガナンを導く宣託の樹が根付いている。
高き天井を突き抜けて枝葉を伸ばす宣託の樹には、幾重にも花弁を重ねた虹色の花が咲き乱れる。春風に柔らかな花を散らしながら、微笑むように大樹は枝を揺らしていた。
まるで祝福を授けるかのごとく、花片は人々の頭上に降り注ぐ。
「今日という良き日を迎えられたことを、心から嬉しく思うよ」
肌が粟立つほど美しい顔立ちをした少年が、高らかに声を張り上げた。豊かな深緑の髪を風に遊ばせた彼の足首は、重厚な鎖によって虹色の花咲く大樹に繋がれている。
「
未来樹は――僕は、何度でも勇者を選ぶ。魔王が滅びる、その日まで。我らが世界が美しき姿に戻る、その日まで」
未来樹は、視線の先にいる一人の青年へと両手を伸ばした。
日の光を浴びて艶やかに輝く銀髪に、何処までも澄んだ蒼穹を湛えた瞳。大剣を手にした青年は、未来樹に応えるように鋭い眼差しで前を見据えた。
「さあ、愛しき者の名を」
未来樹の言葉に、
勇者となる青年は頷いた。
「リヴィエラ・アーヴィング」
青年がその名を口にした瞬間、あたりを光が包み込む。
――その日、魔王に侵される世界を救う、三十四代目の勇者は生まれた。