花と髑髏

第二幕 長い冬の終わりに 14

 床に座り込んでいたディートリヒは、立ち上がって軽く身体を伸ばした。ゆっくりと部屋中を見渡すと、いくつもの本や書類が散らばっている。それらは、過去のグレーティアにおける結界の強度、収穫量や気候状態が記されたものだ。先日アロイス経由で取り寄せた南部の記録も含まれている。
 しかし、このようなものにあたったところで、現状に対する解決策は浮かばない。
 過去を洗ったところで、今と同じような事態に陥ったことは一度もない。こんなにも気候などの諸条件が安定しているのに、何故不作の報告が上がるのか理解できなかった。
 溜息をついて、仕事部屋の隣に備えられた小部屋に入る。絵具が飛び散った床には、未完成のまま放置された絵の数々と、木炭や筆が転がっている。良く手になじんだ、王城のアトリエに置いていた道具たちだ。
 幼い頃に教えられた絵画は、フェルディナントの邪魔にならない唯一と言っていいほどの教育だった。いくら極めたところで、それは帝王学や武術のように自分を王に推す理由にはならない。だからこそ、幼少のころから手放さなかったものだった。
 また、決定的に才能がなかったことも好ましかった。技術が上達したところで、虚ろな絵は評価されない。
 脳裏に思い出されるのは、日中は図書館に逃げ、夜はアトリエに籠って泥のように眠った日々だ。秘密裏に訪ねてくるフェルディナントだけが唯一の光だった。
 彼だけが、血の通わぬ冷たい人形に命を吹き込み、死ねない化物に心を与えたのだ。
 首筋に刻まれた醜い傷痕に触れて、血が滲むほど強く唇を噛む。この傷を自らに刻んだのは、兄の進む道を守るためだった。優しい兄を傷つけると知りながら、彼を想うなら死ぬべきだと信じて疑わなかった。
 ――自分はアメルンの人形であり、化物である。
 当時を思い出して傷痕をなぞったところで、死への恐怖はなかった。あるのは、兄のために死ねなかったという悔いだけだ。
 不意に、恐る恐る傷痕に触れてきた小さな手の感触が蘇って、ディートリヒは苦笑した。薄い身体を震わして、彼女は自分のために涙を流した。頭を抱きしめてくれた身体は幼く、少年と少女の狭間を揺れる未分化の美しさを持っていた。
 だが、その心は子どもと呼ぶには澱んでいる。蜜色の瞳に宿るのは仄暗い光で、彼女は幼さゆえの無垢な輝きなど遠い昔に棄ててしまっている。
 だからこそ、彼女のことが危うい存在に感じられる。彼女が女を棄てる覚悟をして、子どもの身体にこだわる理由は知らない。だが、そのような無理を通して傷つくのが彼女自身なのだとは知っている。
 子どもであることを望み、女になったことに絶望した人こそが、自分をこの世に産み落としたのだから。
 ――アメルンの女は初潮を迎えると魔術を行使できなくなる。
 一族は男女によって力の持ち方が異なり、女が魔術を扱えるのは子ども時代だけだ。その代わり、女は次代に魔術を――魔術の源となる水晶を継承させることができる。一方、男は生涯魔術を扱うことができるが、次代に水晶を継承することはできない。
 ディートリヒの母親が王の愛妾として献上されたのは、水晶を次代に受け継がせることを期待されたからだった。一族の長であるメルヒオールの娘であり、優れた才能と力の強い水晶を持っていた彼女は、アメルンの血を継いだ王の子を生むために妾妃となった。
 滅びゆくアメルンを救うために、それは必要な布石だった。だが、己の才能を誇り魔術を愛していた母にとっては、身を切られるような苦痛だっただろう。
 女であるが故に魔術を奪われ、愛してもいない子どもは自分が手放さざるを得なかった魔術を操る。無邪気に魔術を行使するディートリヒは、手酷く彼女を傷つけたはずだ。
『お前なんて、生まなければ良かった』
 狂気に駆られたわけでも、取り乱していたわけでもなかった。静かに涙を流しながら、母は幼いディートリヒに刃を向けた。
 古傷が疼いたような痛みに眉をひそめる。とっくの昔に癒えた傷だというのに、息苦しくて堪らなかった。あの時零れ落ちた母の涙の冷たさが、刻みつけられた痛みが、今もなお心を惑わすのだ。愛していない母から受けた傷などどうでも良いと言い聞かせてきたはずなのに、いつまでも過去に囚われている。
「母上。貴方は、……今も、僕を憎んでいますか」
 愛してくれなかったから愛することができなかった、もう顔も思い出せない美しい人。だが、憎んでいたわけではなかったのだ。どれほど憎まれようとも、本当は母のことを大切にしてあげたかった。
 彼女が刃を振りかざした時、手を伸ばして抱きしめてあげることができれば良かった。そうすれば、きっと、絶望する母に寄り添えた。実父に駒として利用され殺された哀れな末路を、穏やかなものにできただろう。
 朝焼けの少女がディートリヒにしてくれたように、母の痛みを抱いて泣いてあげれば良かった。誰かが自分のために涙してくれるだけで救われる心があるのだと、どうして、幼い日の己は知らなかったのだろう。
 ディートリヒは木炭を片手にして、真白な紙に少女の輪郭を描き始める。頭の中には、白くふっくらとした頬に蜜色の瞳をした少女がいる。白いリボンの映える朝焼け色の髪を風に遊ばせて、彼女は微笑んでいた。
「エデル」
 彼女が自分に同情したのは似ているからだ。しかし、いくら似通った点があったとしても、死にたがりの自分と彼女は違う。
「君は、帰る」
 エデルの胸元に刻まれた魔女文字が、鉛のように重くディートリヒの心に圧し掛かる。その残酷な文字は、彼女がこの時代に留まることのできる期限を示している。
 時の魔術とは、過去から未来へと繋がる時間の流れに歪みを持たせるためのものだ。その時間に本来ならば存在してはならないものを招くために、魔術は連綿と続く時の流れに歪みを生じさせる。歪みとは、過去と未来の交わりによって生じた様々な出来事を、なかったことにしないためのものである。
 この時代にエデルを招いた人間が誰であるか、ディートリヒは薄々気づいている。
 その人物は気の遠くなるような時間、毎日欠かすことなく時の魔術を構築していくのだろう。時を司る魔術――エデルが一年間この時代に存在するための歪みを生みだすためには、その何十倍もの時間と制約が生じる。
「嫌なんだ。大事なものなんて、……兄上だけで、良かった」
 フェルディナントだけが特別で良かった。彼だけを愛して、彼のために盲目的に生きることこそが幸福だった。
 幼い日、白い花々を染めゆく朝焼けの中、金色の髪を風になびかせて微笑んでくれた人。この身体に流れる血潮が彼の道を阻むものだと知りながら手を差し伸べてくれた人以外に、心を砕きたくなどなかった。
 それなのに、涙を流してくれたエデルが心の奥底に刻み込まれてしまった。
 描かれた少女の顔を黒く塗りつぶして、ディートリヒは項垂れる。
 あの小さな身体を抱きしめて、この腕に閉じ込めたところで、一体何が残るというのだろうか。別れることを知りながら、それでも共に在ろうとする強さなど持つことはできない。一度手にしたら、ずっと傍にいて欲しいと願うに決まっていた。
「ディー? 今日は部屋にいると聞いたのだが」
 耳慣れた愛しい声に、ディートリヒは立ち上がって部屋の扉を開けた。
「兄上」
「アトリエの方にいたのか。元気にしていたか?」
 金色の長い髪を結えて微笑む訪問者に、曖昧な笑みを浮かべて頷く。
 今日も今日とて、フェルディナントは変わらず微笑みかけてくれる。そのことを嬉しく思うと同時に、胸の奥に小さな痛みが生まれた。
 それが、ひと匙の不安だと知っている。いつか兄は自分のことを疎ましく思うのでないか、と恐れているのだ。彼が愚かしくあればあるほど自分を頼りにしてくれる、と醜悪な喜びを抱えているというのに身勝手な話である。
「ええ、この通り元気ですよ。兄上もお元気そうで何よりです。お忙しいのに、わざわざ僕のところまで足を運ばせてしまい申し訳ありません」
「お前は私に嘘をつかないから、本気で言っているのだろうが……。お前以外に口にされたら、厭味にしか聞こえないな」
 目を伏せる兄を見て、ディートリヒは先ほどの発言が裏目に出たことに気づく。
 臣下の者たちは、父王の早世に伴って即位した若き王を認めていない節がある。高官の中には、王が政務に深く関わることを厭って、政から遠ざけようとしている者までいる。その上、未だにフェルディナントの即位を認めていない一派が存在するのだ。
「今日はどのようなご用件で?」
 気の利いた言葉一つ口にできず、ディートリヒはわずかに顔を歪めた。憂い顔を見たいわけではないのに、兄を慰めることすら満足にできない。
「エデルから聞いたのだが、城下町に降りた日、アメルンの者たちに襲われたそうだな。それで、あの時のように無茶をしていないか不安になったんだ」
 あの時とは、王位争いの最中、ディートリヒが喉を突いた時のことだろう。
「ご心配ありがとうございます。……ですが、あの時のような真似は、もうしませんよ」
 ――あの時と同じように喉を突いたところで、死ぬことなどできないのだから。
「そして、ご安心ください。アメルンが僕のことを諦めていなくとも、僕には王になるつもりなどありませんから」
 フェルディナントの即位に全面的に反対し、ディートリヒの王位継承を主張した筆頭こそ、アメルンの一族だ。また、彼らに同調した貴族も数多いる。
 フェルディナントは長子だが、妾妃である母親の出身は貴族ではなく商家だ。長子ではないが、貴族相当の地位を持つアメルンの血を継ぐディートリヒを支持している者も未だ根強くいる。
「そもそも、継承権を棄てた時点で、グレーティアの王になる資格はありません」
 王位争いが起こってから一年後、王位継承権を決死の覚悟で放棄し、住処を王城から花冠の塔に移した。これ以上、祖父に利用されて兄の道を阻みたくなかった。
 胸元で腕を組んだフェルディナントは苦笑する。
「だが、滅びゆくアメルンにとって、王家が所有する国守の水晶は喉から手が出るほど欲しいものだ。お前が王となれば、水晶は彼らのものとなるのだから」
「ええ。だから、彼らは諦めきれずにいる」
 国起こしの時代、グレーティアが森の女神から授かった水晶は二つあった。
 一つは、国守の水晶として、建国王ゲオルク・グレーティアに。
 一つは、花守の水晶として、アメルンの祖となった『魔女』に。
「アメルンの『魔女』は、身の内に水晶の欠片を取りこむことで魔術という異能を手に入れた。彼らにとって、水晶の喪失は魔術の滅びと同義だからな」
 一部の者しか知り得ない史実を口にして、フェルディナントは目を伏せた。
「一方、建国王ゲオルクは、水晶の力を国のために半永久的に使うことにしました。王族が水晶に力を注ぐことで、国土は豊かになり、結界は半永久的にグレーティアを包み込みます。――だけど、王族が所有する国守の水晶と違って、花守の水晶はほとんど残っていません」
 水晶を保つ王族と、水晶を削り続けたアメルン。
 水晶がなくなれば、その先に待つのはアメルンという魔術師たちの滅びだ。『魔女』の血を継ぎ水晶を扱う力を持っていようとも、肝心の水晶がなくなれば話にならない。次代に水晶を受け継がせることができるのは『魔女』と同じ女だけだ。どう足掻いても、水晶は年月とともに減っていく。
 だが、魔術に依存し過ぎたアメルンは、かつて極めた栄華を諦めきれず、滅びゆく異能を受け入れられずにいるのだ。
「アメルンは滅びるべきです。人が己のものとするには水晶は手に余る。――自分で死ぬことすらできない力なんて、あってはいけない」
 フェルディナントの視線が首筋の傷痕に寄せられたのを感じながら、小さく拳を握りしめた。
 あの時の選択が間違っていたとは思わない。あそこまでしなければ、王位継承権の放棄は認められなかった。間違っていたのは、死ねない身体の方だ。喉を突いたまま朽ち果てることができれば、禍根かこんを残すこともなかった。
「……まだ、お前の成長は完全に止まっていないのか?」
「ええ。だから、僕はまだ兄上の隣に並べません。この身が老いを忘れ、次代を遺せなくなった時にこそ、僕は兄上の力となりましょう」
 アメルンの男魔術師たちがそうであったように、この身体は水晶の影響で老いを忘れ、次代を遺す力さえ失う。半ば奪われた死はさらに遠のき、水晶の老衰以外の理由で死ぬことはできなくなるだろう。
「だが、それを言ってしまえば、お前がエデルを塔に置くことも不味いだろうに。あの子は女だよ、ディー」
「いいえ、……エデルは、子どもです」
 言い訳のように口にして、ディートリヒは目を落とした。本当は気付いている。彼女は出逢った時の幼さを失い始め、固い蕾から驚くほどの速さで花開こうとしている。
 侍女の一人も連れずに花冠の塔に引き籠ったのは、未だ、この身体が完全には成長を止めていないからだ。次代を遺す可能性があるうちは、自分を王に添えようなどという莫迦な考えを持つ者が後を絶たない。
「メルヒオール・アメルンの焦りは良く分かります。あの男自身、僕の母を成したのは、僕と同じくらいの年齢です。――だからこそ、逃げ切ってしまえばこちらのものです」
 逆に言えば、自分が生殖機能を失ってしまえば、おおかたの者は諦めざるを得ない。国を守る要となった水晶を扱うことができるのは、ゲオルク・グレーティアの直系だけだ。その血を絶やしかねない胤なしの王など、認められるわけがない。
「私には、お前の言葉がひどく悲しく聞こえるよ」
 フェルディナントの手が頬に触れた瞬間、ディートリヒは弾かれたように顔をあげる。交わった視線に肩を揺らすと、兄は寂しげに微笑した。
「エデルが、好きなのだろう?」
 優しい声に籠められた確信に、耐えきれず息をついた。もとより、この人を相手に嘘がつけるはずがないのだ。自分が抱いてしまった淡い想いさえ、彼には見透かされているだろう。
「兄上……、僕は望みなんて、欲しいものなんて、要らなかったんです」
 無防備に自分の部屋を訪れたエデル。あの細い首筋に触れて、華奢な胸元を暴いたら、と想像したことは一度や二度の話ではない。
 だが、彼女を求めるわけにはいかなかった。
「この血を絶やすと決めたことに、後悔なんてなかったはずなのに。あの子に僕の生きた証を刻みつけたくなってしまった」
 ――それは、何もかも不幸にしてしまう道だ。
 いずれ帰る彼女への想いを遂げたところで、その先に待つのは避けられない別れである。実を結んだとしても、彼女の未来を妨げることにしかならない。
「ディー。私は、それでも構わない。お前が私の幸せを願ってくれるのと同じだけ、私はお前の幸福を願っているのだから」
「兄、上……?」
「あの子を愛しているならば、迎え入れて家族を築いても良い。望むなら、お前の子を養子にして、後ろ盾になってやっても構わない」
 淡く微笑んだ兄の姿に、ディートリヒは目を見張った。有り得ないことだが、もしも、自分が子を成したとしたら、その子は必ず兄の害となる。メルヒオールに付け入る隙を与えることになると、彼は気付いていないのだろうか。
「すべてに執着することのなかったお前が、何か得難いものを欲したならば……、手を伸ばして欲しい。そうして、幸せになってほしいと私は心から思う」
 この人は底抜けに優しくて、故に愚かでさえある。その優しさと愚かしさが、彼の首を真綿で絞殺す前に守らなければならないと思う。
「ありがとうございます。そのお気持ちだけで、十分です」
「気持ちだけ受け取られても嬉しくないのだが、お前は一度決めたことを覆さないからな。昔から頑固で……、だから、哀れだ」
 悲しげに眉をひそめてから、フェルディナントは立ち上がった。
「また来る。その時は、お前の笑顔が見たいものだ」
 踵を返した兄の背中は、いつだってディートリヒを愛しみ守ろうとしてくれた人のものだった。己の道を危うくする弟を見限ることすらできない哀れな人だ。
 兄が帰ってからしばらくして、ディートリヒは部屋を出た。今日は、エデルと一緒に図書館に向かう約束をしていた。
 彼女の自室を覗くと、長い髪をソファに広げた少女が、安らかな寝顔を晒していた。零れ落ちそうなほど大きな瞳は閉じられ、長い睫毛が白い頬に影を作り出している。わずかに開いた唇からは、かすかに音が漏れていた。可愛らしい寝言でも口にしているのだろうか。
 エデルの傍に近寄って、屈みこみ彼女の口元に耳を寄せる。
「イェル、ク」
 彼女が呼ぶ名を聞いた瞬間、心が凍りついた。幸せそうに笑みを浮かべて、彼女は繰り返し彼の名を呼ぶ。
 その度に、激しい嫉妬がディートリヒの身体を駆け抜けた。夢の中で、彼女は愛しい男と過ごしているのだろう。
 これ以上その名を聞きたくなくて、彼女の薄い肩を揺さぶる。
「ん、……また、悪い夢を見たの? イェルク」
 まどろみをたゆたう彼女は、ディートリヒに手を伸ばした。幼い子どもを慰めるように、そっと彼女が頭を抱きしめてくる。
「大丈夫。わたしが、ずっと傍にいるよ」
 その小さな手に、柔らかな声に籠められていたのは、惜しみない無償の愛だった。エデルの深い想いを知って、ディートリヒは堪らず彼女の身体を突き飛ばしてしまう。小さな身体はソファの背にぶつかり、その衝撃で容易く転げ落ちた。
 目を覚ました彼女は、ゆっくりと身体を起こして、困惑した様子であたりを見渡す。甘い蜜の瞳がディートリヒをとらえると、彼女は驚いたように目を丸くした。
「ディー?」
 エデルがイェルクに向ける想いを、理解しているつもりだった。己が兄を愛するように、彼女は自らが仕える主を愛している。それは絶対的な想いで、決して覆ることのない愛だ。棄てられたと思っている今でさえ、彼女はイェルクを慕っている。
 自覚したところで、この恋心が彼女に届くことはない。彼女にとって特別なのはイェルクだけで、それ以外は物言わぬ景色と変わらない。どれだ想いを向けても、彼女が応えてくれる日は来ないだろう。
 ディートリヒは床に座り込んだままのエデルに手を伸ばす。ほんのり色付いた赤い唇を指でなぞると、彼女はわずかに身体を強張らせる。
「どう、したの……?」
 たとえば、今、唇を塞いで組み敷いたら彼女は自分のものになるだろうか。イェルクではなく、ここにいる自分を見てくれるだろうか。
 彼女の中で消えない男になりたい。ディートリヒのために涙を流して、共に過ごした記憶を永遠にしてほしい。
「先に図書館に行ってるから。アロイスと約束した時間までには来るんだよ?」
 ――ああ、ようやく理解した。
 ディートリヒは、この少女の愛が欲しいのだ。