――、君が、誰よりも好きだった。
それなのに、俺は再び君の心を殺した。
愛しい少女の眼差しが、俺を責め立てた。冷たくなった妖花の身体を抱きしめたコレットに背を向けて、俺はひたすらに森を駆け抜けた。
「……っ、違う、こんなの、違う!」
望んでいた結末は、このようなものではなかった。
幼馴染を喰らった妖花を倒して、漸く、コレットから赦されるのだと信じていた。己が可愛いがために、傷つけ、見捨ててしまった女の子への罪悪感から解放されるはずだった。
そのために、騎士となり、剣をとったというのに――。
愛する者を失った少女の嗤い声が、頭の中で木霊する。
「……っ、コレット」
コレット。幼い日、村で共に暮らしていた綺麗な女の子。
彼女の仇をとるために向かった先で、彼女は森の主に心を奪われていた。幼い日から欲しかった大切な女の子は、悪夢のような形で妖花のものとなっていた。
微笑み合う彼らを見つけた時に、駆け抜けた黒い感情は憎悪だった。
俺には、森の主を憎む資格も、彼に心奪われたコレットを恨む資格もなかったというのに。
ずっと一緒だと思っていたのに、どうして、彼女を傷つけてしまったのだろう。妖花に捧げられる彼女を、助けてやらなかったのだろう。
泣いて助けを求める彼女に背を向けて、俺は何をした。
美しく幸せになった彼女に、――俺は何をした。
彼女を二度も不幸にしたのは、紛れもなく、俺自身だ。
「君が、……好きだったんだ」
君を慕った俺の心が、君の幸せを奪った。笑い合う二人の仲を引き裂いても、俺の心は満たされなかった。
青き血に濡れた剣に、一筋の涙が落ちた。
今さら後悔しても、何一つ戻りはしないのに。
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