水槽をたゆたうクラゲが、書庫の暗がりを照らしている。
 ここは海月館。海神を祀る場所、死者の集う館。
 今宵もまた、さまよえる死者は現れる。死んでも忘れることのできなかった後悔を抱えて、海に還ることができずにいる。
 その後悔を紐解き、海神の御許に導くことが、凪に与えられた運命だった。
 ――海の底には、きっと地獄がある。
 この暗くて深い、海の底みたいな地獄から、凪は逃れることができない。いつか擦り切れてしまう日まで、囚われ続ける。
 報われるものなど、きっと何一つありはしない。
 それでも、湊が一緒にいてくれるのならば、もう二度と、この手を離さない。水槽で寄り添う、あのクラゲたちのように手を繋いでいよう。
 死さえも、ふたりを分かつことなく、いつまでも共に在ることができますように。

 この恋が、永遠に癒えることのない呪いとなりますように。


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